第49回 寝たきりの犬の介護
滝田雄磨 獣医師
犬も年を重ね、高齢になると足腰が弱くなってきます。
散歩での歩き方がゆっくりとなり、段差が苦手になり、ふらつくようになり、寝たきりになってしまうこともあります。
寝たきりになると、飼い主の介護なしでは生きていけません。
寝たきりの犬にはどのような介護が必要なのでしょうか。
排泄のケア
以前のコラムでも触れましたが、排泄の介護は重要です。
寝たきりになった犬は、高確率で排泄物によって身体を汚してしまいます。
身体に排泄物が付着したままだと、皮膚炎を起こし、感染症になってしまいます。
排泄したあとは、なるべく早く身体を綺麗にしてあげましょう。
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関節のケア
寝たきりになり、手足を使わなくなると、四肢の関節がだんだんと固くなってきてしまいます。
一度寝たきりになってしまっても、また立てるようになる可能性があります。関節が固まってしまわないように、リハビリ、マッサージをしてあげましょう。リハビリは、関節の曲げ伸ばしをするようにします。
指や肘、肩、膝、股関節を意識して動かします。
ただし、無理なリハビリは禁物です。
関節の可動域が狭くなっているときは、それを超えて曲げ伸ばしをしないようにしましょう。
思わぬ怪我に繋がる恐れがあります。
筋力のケア
関節の可動域とは別に、筋力もまた衰えてしまいます。
筋力を維持するためには、屈曲運動やリハビリ、マッサージ、適切な栄養摂取が効果的です。
まだ自立できる犬の場合は、補助をしながら立ったりゆっくり歩いたりしてみましょう。
床が滑りやすい素材の場合は、ヨガマットや滑り防止マットを活用しましょう。
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床ずれ
床ずれは、身体の一部が圧迫され続けたときに血流が滞ることが原因で起きます。医学的には褥瘡(じょくそう)と言います。
寝たきりの犬の場合、体重がかかりやすい部位、腰骨や頬骨など骨が出っ張った部位でよく発症します。
血流が滞ると、その部位の酸素や栄養の供給が不足し、皮膚が壊死してしまいます。
寝たきりの犬でも身体は動くため、壊死した皮膚には摩擦がかかります。その結果、壊死した皮膚が剥がれ落ちます。
軽度の場合は、毛が薄くなり皮膚が赤くなるだけですが、進行すると、水疱ができ、表皮が剥離し、皮下組織が脱落し、筋肉や骨が露出することもあります。
より深い組織が露出するほど、重度の感染を起こし、最悪の場合その感染が原因で命を落とします。
寝たきりの犬で最も問題となる床ずれは、原因を除去することで予防できます。
体位変換
身体の同じ部位に圧力がかかり続けることを防ぐため、定期的に体勢を変える必要があります。
寝たきりの犬の場合、基本的に右下もしくは左下の横向きの姿勢をとります。
2〜3時間に1回を目安に、下になる側を変えてあげましょう。
家族何人かで介護する場合は、何時にどちらの向きに体位変換をしたのかが分かるように、体位変換をした時間と向きの簡単な表を作り、張り紙やメモにすると良いでしょう。
体位変換をするときにひとつ注意したいことがあります。
身体を回転させるときに、仰向けにさせないことです。寝たきりの犬を仰向けにさせると、食道の内容物が気管に入り、誤嚥を起こす恐れがあります。
老齢犬における誤嚥は大変危険で、そのまま呼吸困難となり命を落とす恐れもあります。
犬の隣に座り、肘の内側で犬の頭を支え、両腕で胸と腰を支えるように抱きかかえ、仰向けにならないように一旦少し持ち上げてから反対側に寝かせるようにしましょう。
床ずれ防止用具
体重による圧力を分散させると、床ずれになりにくくなります。
極端な話をすれば、硬いフローリングに寝かせていれば、骨で出っ張った部位に体重が集中し、すぐに床ずれになってしまいます。
柔らかい素材を使うことで、体重圧を分散させることができます。近年では床ずれ防止用のマットも開発、販売されていますので、利用してみましょう。
床ずれ防止用のマットは、寝たきりの犬で体重圧を分散させやすくなる工夫がなされている他、通気性をよくし、皮膚を清潔に保つ工夫もされています。
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身体の清潔
床ずれは皮膚が蒸れたり感染を起こしたりすると悪化します。
床ずれ防止マットの利用、おむつの定期的なチェックなど、蒸れにくい工夫が必要です。
排泄物による皮膚の汚れは、感染を起こしやすくします。身体が汚れてしまったら、なるべく早く綺麗にしてあげましょう。
皮膚が弱くなっていることが多いため、身体を強く擦らないように注意してください。
ぬるま湯で流してあげたり、水を使わないシャンプーを使ったりして綺麗にしてあげましょう。
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体位変換のやり方を動画で説明しているよ!
マッサージ
皮膚や筋肉の血流を促進させる方法のひとつとして、マッサージがあります。
マッサージは皮膚をさする、揉む、圧迫するなどの方法があります。犬が痛がっていないか、気持ちよさそうにしているか様子をうかがいながらマッサージをします。
ただし、床ずれを発症している部位には、マッサージをしてはいけません。
床ずれがある部位に力を加えると、症状は悪化し、場合によっては組織が脱落してしまいます。
皮膚が赤くなっている部位がないかどうか注意深く観察し、無理なマッサージはしないように気をつけましょう。
外界の刺激
寝たきりになってしまった犬は、同じ場所に長時間いるため、外界からの刺激が減ってしまいます。
高齢の犬が刺激のない生活になると、認知症になる恐れがあります。
また、日光にあたっていないと、体内時計が狂い、夜鳴きをするようになることもあります。
カートにのせたり抱きかかえたりして外を散歩したり、家の中でも時々日光浴をさせてあげましょう。
外の空気に触れるだけでも、刺激になり気分転換をすることができます。
寝たきりの介護
年を取り、寝たきりになった犬の介護のコツについて紹介しました。
寝たきりの犬は介護の方法を間違えると、病気や怪我をさせてしまう恐れがあります。犬も飼い主も上手に楽しく介護生活を送るための一助となれば幸いです。
介護の相談だけでも動物病院を利用することができます。悩み事があれば、動物病院に相談してみましょう。