第41回 変形性関節症と悪循環
滝田雄磨 獣医師
以前、冬と肥満の回で述べましたが、冬は肥満になりやすい季節です。
肥満は万病の元といわれますが、その万病のひとつに関節疾患があります。
肥満と関節については以前も触れましたが、今回は少し詳しく解説したいと思います。
肥満と関節と悪循環
- 肥満になると体重が増える。
- 体重が増えると関節の負担が大きくなり、障害を受ける。
- 関節が障害を受けると、痛みを伴う。
- 関節が痛いと、運動量が極端に減る。
- 運動量が減ると、肥満が進行する。
こうした悪循環に陥ってしまう点が、肥満が原因で起こる他の疾患よりも恐ろしいところでしょう。
さらに、残念なことに、関節の構造が一度変化してしまうと、基本的には完治することができません。
変形性関節症(骨関節炎)
なんらかの原因により(感染症を除く)、関節の軟骨の変性、関節構造の変化が起きたとき、変形性関節症と診断されます。 人間も含め、老齢の動物では、一般的にみられる疾患のひとつです。 人間の医療においても、近年注目されている分野です。
関節は、使えば使うほど消耗します。超高齢社会となり、関節を長く使い、関節症を発症してしまう人が急増しているのです。
動物医療でも、寿命が飛躍的に伸びている影響で、患者が増加している分野です。
変形性関節症の悪循環メカニズム
肥満と変形性関節症の悪循環のまえに、 実は変形性関節症の疾患自体にもいくつかの悪循環システムがあります。
関節内の滑液
- 軟骨が損傷する
- 炎症が起きる
- 滑液の質と機能が低下する
- 軟骨がさらに損傷しやすくなる
関節内の血流
- 軟骨が損傷する
- 炎症が起きる
- 白血球が活性化する
- 血液の凝固が促進される
- 微細な血管が閉塞する
- 骨が壊死する
- 関節の構造が変化し、損傷しやすくなる
タンパク分解酵素
- 軟骨が損傷する
- 炎症が起きる
- 白血球が活性化する
- 白血球や滑膜細胞からタンパク分解酵素が放出される
- 酵素によって軟骨のタンパク質が分解される
このように、一度軟骨が損傷してしまうと、いくつかの悪循環が引き起こされ、症状はどんどん進行していってしまいます。
変形性関節症の症状
関節が痛くなると、活動性が低下します。
ただし、進行はとてもゆっくりのため、病気の初期ではなかなか気づくことができません。
また、老齢になってから症状が強くなってくるため、多くの飼い主は、ただの老化で活動性が低下したと思ってしまいます。
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
犬
- 歩く、階段の上り下り、遊ぶことを嫌がる
- びっこをひくようになる(跛行)
- 散歩で歩く速さが少し遅くなる
- 歩いているうちに症状が和らぐ
猫
- 高いところへ登らなくなる
- 毛づくろいが上手に出来なくなる
- トイレでの排泄を失敗する
臨床症状、身体検査をふまえたうえで、レントゲン検査をします。
初期の病変では、診断することが困難ですが、進行してくると、レントゲンで骨の構造の変化が分かるようになります。
正常では滑らかに写る骨の縁が、ギザギザに写ったり、白く増生して写ったりします(骨棘)。
こういった構造の変化は、脊椎でもよくみられます。
変形性関節症の治療
先述したとおり、変形性関節症は完治することが難しい疾患です。
そのため、治療の目標は病期の進行を遅らせること、疼痛を管理することが主体です。
1. 疼痛管理
すでに痛みをともなう程度まで症状が進行してしまった場合、痛みを和らげる治療が必要です。
一般的に使用される薬は、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)でしょう。プレビコックス、オンシオールなどが好んで使われます。この薬は、鎮痛、消炎作用ともに大変よく効く薬ですが、まれに胃もたれを起こすことがあります。嘔吐などの消化器症状が認められたら、獣医師に相談してください。
また、腎不全の患者さんには、負担がかかるおそれがあります。高齢の場合、予め血液検査などで腎臓を調べておくことをお勧めします。
2. 体重管理
体重が増えれば増えるほど、関節にかかる負担は大きくなります。
とはいえ、極端な食事制限をすると、栄養不良となり筋力の低下や様々な弊害をひき起こします。一度肥満になってしまったものは仕方がないので、あせらずゆっくり減量をすることが大切です。
そのためには、関節疾患に配慮されたフードの選択が望まれます。
具体的には、週に1~2%,1ヶ月に4~8%の減量が理想的であるとされています。
3. 栄養学的管理
体重管理とともに大切なことが、関節炎の治療に有効な栄養成分の摂取です。
具体的には、以下のような成分があげられます。
- グルコサミン
- コンドロイチン硫酸
- フラボノイド
- 必須脂肪酸
- ウコンエキス
- 加水分解コラーゲン
- 抗活性酸素(ビタミンC,ビタミンE)
これらの成分は、関節疾患に配慮されたフードもしくはサプリメントで摂取することができます。
4. 筋肉管理
関節疾患が発症し、運動量が低下したときに起こるのが、筋肉量の低下です。
筋肉量が部分的に低下すると、左右で足の太さが変わることもあります。筋肉量が低下すると、運動をさらに嫌がるようになり、悪循環に陥ります。
また、筋肉量が低下すると、患部の関節に負担がかかり、症状も悪化します。
このことから、適切な栄養摂取と、適度な運動が望まれます。可能であれば、10~15分程度の短い散歩を、一日に4~5回行います。その運動も難しい場合は、ストレッチ、マッサージなどで筋肉を刺激します。
設備があれば、水中運動をさせることも有効です。
5. 疾患修飾性変形性関節症治療薬(DMOADs)
難しい名前ですが、要はいくつかの機序で関節症を治療する薬です。
代表的なものでは、犬用の薬である、カルトロフェンがあげられます。
この薬は、ポリ硫酸ペントサンナトリウムという成分が主成分であり、先述した変形性関節症の悪循環メカニズムを、いくつかのポイントで抑えることができます。
鎮痛薬や栄養学的管理とはことなり、悪循環を多面的に抑えることで、効果を発揮します。
週に1回の皮下注射で通院し、4回の通院で治療反応を観察します。
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予防が大切、変形性関節症
冬の肥満によって悪化する疾患、変形性関節症について紹介しました。
高齢化にともない、人でも動物でも注目されている疾患です。 患者数が増え、より身近になっている疾患ですが、特効薬はなく、完治することができない疾患でもあります。 長く生きる時代だからこそ、関節も大事に使ってあげましょう。肥満をおさえ、適度な運動と栄養管理。
人も動物も、日々の健康管理が大切です。