第32回 犬猫に寄生するダニ。ヒゼンダニ。
滝田雄磨 獣医師
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今回は、犬猫に寄生するダニのうち、皮膚疾患を起こすヒゼンダニについてお話します。
ヒゼンダニの寄生によって起こる皮膚疾患を疥癬呼びます。
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ヒゼンダニは、形は丸く、体長が約0.3mmのとても小さいダニです。
肉眼で確認することは出来ません。
そのため、飼い主はヒゼンダニを見つけて来院されるのではなく、犬猫の強い痒みを主訴に来院されます。
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犬、猫、人間でそれぞれ異なる種類のヒゼンダニが寄生します。
しかし、犬猫に寄生するヒゼンダニも、一時的に人間に寄生し、湿疹や痒みを引き起こすことがあります。
そのため、犬猫の痒みを主訴に来院された飼い主様にも皮膚症状があった場合、ヒゼンダニを疑います。
人間に寄生した場合、ヒゼンダニは繁殖することなくすぐに死亡します。
そのため、感染している犬猫を治療すると、飼い主の症状も次第におさまります。
ヒゼンダニは、皮膚の中の浅いところ、表皮の角質層に寄生します。
特にダニが好む部位としては、耳の縁、肘や踵、胸腹部などが挙げられます。
重症化すると全身に広がりますが、背中の中心線に寄生されることはほぼありません。
感染すると、1週間以内に、赤い発疹や小さなカサブタができます。
一般的に強い痒みをともない、患部の掻き壊しによる傷や炎症を引き起こします。
掻き壊しが持続すると、色素沈着が起こって皮膚が黒くなったり、
慢性的な炎症によって皮膚が分厚くなったりします。
ヒゼンダニは卵から成虫までのサイクルが短く、2〜3週間で一周します。
成虫の寿命も短く、およそ4〜5週間です。
ヒゼンダニは、基本的に感染動物との直接接触によって感染します。
ただし、環境中で3週間ほど生存することもあるため、
治療をするときは徹底した環境清掃も重要です。
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ヒゼンダニは皮膚の浅いところに寄生します。
また、メスのヒゼンダニは、表皮の中に卵を産みます。
そのため、動物病院では、皮膚の表面を削り、その削り取った皮膚からヒゼンダニを検出します。削る部位としては、小さなカサブタがある部位(メスダニが産卵している可能性が高い)を中心に行いますが、広く浅く削ることが必要です。
浅くとは言っても、少し出血するくらいまで削るのが理想的です。
ただし、検出率は決して高くなく、複数回の通院で検出されることもあります。
また、検出できない場合に、試験的に駆虫薬による治療をし、治療反応をみる方法がとられることもあります。
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ダニの駆虫薬によって治療します。
残念ながら、一般的に購入できるダニの駆虫薬の多くは、ヒゼンダニを駆虫することができません。
使用する際は、効能をよく確認しましょう。
動物病院では、ヒゼンダニに対する効果が認められている滴下駆虫薬、注射薬、薬浴などの手法がとられます。
1回では完治しないこともあるため、複数回駆虫治療します。
その際、同居動物も全員同時に駆虫すること、飼育環境を徹底的に清浄化することが重要です。
ここを怠ると、いつまでたってもヒゼンダニを駆虫することが出来ません。
皮膚炎によって二次的に細菌感染症などを起こしている場合は、この治療も同時に行います。
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適切な治療がされれば、完治可能な疾患です。
しかし、検出が困難であること、ステロイドなどにより一時的に症状が緩和したのちに悪化することから、
アトピーや食事アレルギーなどの疾患と診断され、治療がうまくいかないこともあります。
比較的身近な感染症でもあり、積極的な検査、治療が望まれます。
ヒゼンダニのなかには、耳の穴の中を好んで寄生するものもいます。
ミミヒゼンダニ症とよばれ、外飼育の犬猫、仔犬や特に仔猫で多くみられます。
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その名の通り、耳に寄生します。
しかし、ヒゼンダニとは違い、皮膚の中に潜るのではなく、皮膚の表面に寄生します。
そのため、検査をするときに耳道の表面を削る必要はなく、耳垢の検査を行います。
ミミヒゼンダニは皮膚の中に隠れているわけではないので、耳垢検査で比較的高確率で検出することができます。
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国内で認可されているミミヒゼンダニの駆虫薬は、現在のところ1種類しかありません。
レボリューションという滴下剤です。
したがって、ミミヒゼンダニと診断されたら、このレボリューションを使って治療します。
また、同時に、耳道の洗浄をしっかり行うことで、ミミヒゼンダニの寄生数を減らします。
ミミヒゼンダニにおいても、一回で完全に駆虫できないことがあるため、
2週間後に再度駆虫することが勧められます。
外耳炎を併発し、耳道の洗浄を痛がってしまう場合は、
ステロイドを含んだ点耳薬による治療から開始し、数日後に再度耳道洗浄を試みます。
ヒゼンダニと同様、同居動物がいる場合は、全員一度に治療することが大切です。
また、屋外に出ることがある動物の場合は、定期的な駆虫で予防することが勧められます。
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同じヒゼンダニでも、寄生部位、症状、治療法にこれだけの違いがあります。
世の中には膨大な種類の寄生虫がおり、それぞれ症状、対処方法が異なるのです。
ヒゼンダニの場合は、直接命にかかわることがない寄生虫ですが、その掻痒によるストレスは想像を絶するものがあります。
普段の犬猫たちの様子をよく観察し、異変を感じたら早めに動物病院を受診し、辛い痒みから一刻も早く解放させてあげられるように心がけましょう。