第30回 ネコカゼ
滝田雄磨 獣医師
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人間と同じように、猫も風邪をひきます。
症状としては、くしゃみをしたり鼻水がでたり目やにがでたり・・・
猫が風邪をひいたら、どうすればよいのか、
放っておいても治るものなのか、そもそも風邪とはなんのことなのか。人間が風邪をひきやすい季節、猫の風邪についても勉強しましょう。
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そもそも人間が風邪をひいたとき、体の中ではなにが起こっているのでしょうか。
人間において、風邪とは特定の病気の名前ではなく、上気道(鼻や喉)の炎症疾患の総称です。
つまり、原因は何であれ、くしゃみ、鼻水、喉の痛み、咳、たん、発熱などの症状がでた場合、風邪をひいたと言います。これらの症状は、感染源と戦い、排出するための免疫反応です。
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風邪の原因は、微生物による感染です。
微生物には細菌、ウイルスなどが含まれます。
人間では、主にウイルスによる感染が原因となっており、
その割合は90%とも言われています。また、そのウイルスもまた特定のウイルスではなく、
200種類以上のウイルスが原因となりうると考えられています。
猫の風邪もまた、特定の病気の名前ではありません。
上気道の感染症の総称として俗にネコカゼと呼びます。
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猫風邪の原因もまた、人間と同様、
細菌、ウイルスなどの微生物です。人間と同様、感染の原因となっている微生物を特定することは容易ではありませんが、
その症状から、主な原因となっている感染源を推定し、治療します。
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1.ネコヘルペスウイルス(FHV)
猫風邪の代表的な原因ウイルスです。
主な症状は、鼻汁、くしゃみ、結膜炎です。鼻汁がひどく、鼻詰まりが起こると、
猫の食欲は一気に落ち込んでしまいます。地域猫の場合、これが原因で餓死してしまうこともあります。
また、眼の症状は悪化すると、角膜に潰瘍を伴う炎症が起きることもあります。
地域猫などの治療が困難な場合、さらに重症化し、しばしば失明してしまいます。
ヘルペスウイルスの大きな特徴として、一度感染すると、神経のなかにウイルスが潜在感染し、生涯ウイルスを保持し続ける(キャリアとなる)という点があげられます。
ウイルスを保持している猫は、ストレスや免疫抑制剤の投薬によって免疫力が低下すると、再び猫風邪を発症します。
適切な治療をすれば、比較的治療反応が良い疾患ですが、重症化すると失明する点と、症状が治まってもウイルスを保持し続けるという点に注意が必要です。
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2.ネコカリシウイルス(FCV)
ヘルペスウイルスに次いでよく見かけるウイルス疾患です。
主な症状はヘルペスウイルスと類似していますが、
カリシウイルスの特徴的な症状として、
口腔内の潰瘍形成と流涎があります。口腔内や舌に潰瘍ができると、口が痛くて食欲が落ちてしまいます。
食欲が落ちると、体力が落ち、症状は悪化していきます。
また、近年、致死率が高い強毒性全身性カリシウイルスによる感染が報告されている点も注意が必要です。
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3.クラミジア
猫風邪とは少し違いますが、併発していることが多い感染症です。
主な症状は激しい結膜炎です。クラミジアには抗生剤が有効です。
感染が疑われている場合は、抗生剤の点眼や内服を検討します。
また、結膜の炎症が著しい場合は、非ステロイド性の抗炎症薬を併用します。
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1. 抗生剤
先述したクラミジアなど、抗生剤が有効な感染症が併発している可能性があります。
また、免疫力の低下により二次感染を起こすおそれがあるため、多くの場合最初から使用されます。
内服、注射のほか、点眼、眼軟膏なども有効です。
特に眼軟膏は、眼に対して長時間作用するうえ、鼻涙管を通して鼻腔にも流れこむため、呼吸器への効果も期待することができます。
2. 抗ウイルス薬
ウイルスに対しては、抗ウイルス薬が有効です。
しかし、現状大変高価な薬であるため、多くの場合、症状が軽ければ併用されません。
3. インターフェロン
抗ウイルスを兼ねて免疫力を高めるために使用されます。
注射のほか、点眼として局所的に使用します。
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4. L-リジン
サプリメントに分類される抗ウイルス製品です。
リジンとは、猫の必須アミノ酸のひとつで、体内で合成することができず、 食物から摂取する必要があります。
ヘルペスウイルスは、アルギニンというアミノ酸をとりこんで増殖します。
しかし、リジンがあると、アルギニンと間違えてリジンを取り込んでしまいます。
ヘルペスウイルスはリジンでは増殖することができないため、これを抑制することができます。
ほとんど副作用がないサプリメントのため、猫風邪の再発症の予防としても積極的に利用できます。
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5. ネブライザー
薬を霧状にして、気管、肺などの呼吸器官内に吸い込ませる治療法です。
人間でも呼吸器疾患で使用されます。
症状が強く出る部位に直接作用することができ、二次感染の予防としても有効です。
6. 補液、栄養
猫風邪が発症すると嗅覚が働かなくなり、食欲が著しく低下します。
すると、栄養が不十分となり、免疫力が低下し、症状はどんどん悪化していきます。
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食欲の低下があるときは、
流動食などを使って強制的に給餌します。
強制給餌が困難な場合は、チューブを設置して直接食道〜胃の中に給餌します。
また、脱水を呈することも多く、その場合は点滴による補液を行います。
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7. ワクチン
治療法ではありませんが、ワクチン接種で予防をすることができます。
感染を防ぐことはできませんが、発症してしまったとしても、軽症に抑えることができます。
適切なワクチン接種が有効です。
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免疫力が弱い仔猫や老猫の場合、猫風邪は命を落としかねません。
治療が困難である地域猫でも、しばしば命を落とす疾患です。
飼い猫の場合は、症状が認められたら早期に治療を開始すれば、
比較的予後は良好です。
多頭飼育の場合は、猫同士での感染拡大にも注意が必要です。
身の回りでも感染している猫が多い猫風邪。
適切な予防と対処で、重症化を防ぎましょう。