第9回 外耳炎
滝田雄磨 獣医師
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実はとても多い、耳のトラブル
犬で多く見られる疾患、外耳炎についてお話します。
以前のコラムでも触れましたが、外耳炎は皮膚疾患とともに、
来院件数が大変多い疾患です。
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皮膚疾患と同様に、発症件数が多いとともに、
再発を繰り返すケースが多いということも理由のひとつでしょう。
また、発症年齢の幅が大変広く、
若い子では子犬の頃から外耳炎を発症している子もみかけます。
そのため、外耳炎で頭を悩ませている飼い主様は
数多くいらっしゃるはずです。
外耳炎に関する知識を身につけ、
上手に病気と付き合っていきましょう。
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外耳炎とは、読んだ字のごとし、外耳の炎症です。
外耳とは、耳のうち、鼓膜より外側の部分を指します。
鼓膜の外側は耳道、耳介からなり、
さらに耳道はL字形に曲がっているため、
水平耳道と垂直耳道とに分けられます。
この水平耳道、垂直耳道、
耳介の部分に炎症が起こると、外耳炎と診断されます。
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では、なぜ外耳炎が起こってしまうのでしょうか。
それには様々な原因が組み合わさっているということを考えなければいけません。
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①気候と感染
日本は世界でみると、高温多湿の環境に分類されます。
高温多湿の気候では、耳の中の湿気がこもり、
細菌などの微生物の繁殖力があがります。
その結果、特に夏場に微生物の繁殖能力が大きくなり、
感染症、外耳炎を発症しやすくなります。
また、耳道にダニが寄生し、
外耳炎を発症することもあります。 -
②体質
やはり外耳炎になりやすい犬とそうでない犬とがいます。
アトピー、食物アレルギーをもっている犬であれば、高確率で外耳炎を発症します。
脂漏症で肌のベタつきが多い犬もまた、微生物の繁殖力が増し、感染症、外耳炎を発症します。
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③構造
体質と重なる部分もありますが、
耳道〜耳介の形の違いにより、
外耳炎が発症しやすくなることがあります。
例えば、短頭種では水平耳道が生まれつき狭いことが
知られており、
これにより外耳炎が発症しやすくなります。
また、垂れ耳の犬種では、
耳道に湿気がこもりやすくなるため、
外耳炎が発症しやすくなります。 -
さらに外耳炎を繰り返す場合や、治療反応が悪い場合、 -
⑤異物
耳道の奥になにかが入ってしまった場合です。
急性に片方の耳だけが外耳炎を起こしている場合は、
異物も疑います。
植物の種などが多くみられます。 -
⑦中耳炎
外耳よりもっと奥、鼓膜より内側で炎症が起きている場合です。
この場合、治療が奏効していったん外耳炎の症状が落ち着いたとしても、何度も外耳炎を再発します。
内服による治療や、麻酔下の処置により治療します。
慢性的な炎症によって耳道の皮膚が分厚くなり、構造が変化していることがあります。
この場合は、変化した構造によりどんどん感染、炎症が悪化してしまうため、
構造の正常化ができるかどうかが治療のポイントとなります。
④外傷性
なんらかの物理的な刺激を受けて、外耳炎を発症してしまう場合です。
犬自身が痒みから耳を掻いて発症してしまうこともありますが、
多く見られるのが、飼い主による過剰な耳掃除です。
耳道の皮膚は意外と薄く、綿棒でこするだけで炎症を起こします。
洗浄液でふやかした耳垢を拭うくらいであれば大丈夫ですが、
綿棒で乾いた耳道を擦ることは避けましょう。
⑥しこり
耳道にイボなどのしこりが出来ている場合です。
しこりにより耳道が狭くなるもしくは閉塞し、外耳炎を発症します。
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外耳炎にはいろいろな原因があることがわかりました。
ではその原因を特定するためにはどういった検査があるのでしょうか。
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①耳鏡検査
耳鏡とよばれる器具をつかって耳道を観察する検査です。
先述したとおり、犬の耳道はL字型に折れ曲がっています。
したがって、外からちょっと覗いたくらいではなかなか鼓膜までは見えません。
そこで耳を軽く引いて動かし、細い管のついた耳鏡を穴に挿し込んで奥の方を観察します。
耳道の汚れ、炎症、異物、しこりなどを観察することができ、
最も基本的な検査方法のひとつと言えます。
②耳垢検査
耳垢を採取し、顕微鏡を使って耳垢に含まれている細菌や酵母菌などの微生物、
ダニやダニの卵などの寄生虫の観察をします。
③ビデオオトスコープ
耳の内視鏡です。重度の外耳炎で特に力を発揮します。
鎮静をかけないで使うことも出来ますが、麻酔下であれば、
しこりの切除、生検、鼓膜穿刺など、用途は多岐にわたります。
④CT、MRI
中耳炎など、外耳より奥の検査にはCT,MRIが必要です。
施設によっては、全身麻酔下での検査後、そのまま処置へと移行することができます。
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外耳炎の原因にもよりますが、多くの外耳炎は適切な治療さえすれば早期に回復し、予後は良好です。
一般的な外耳炎に対する治療方法、ケアの仕方を紹介します。
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①洗浄
皮膚炎と外耳炎の大きな違いは、耳垢があるかないかです。
皮膚の炎症や傷では、容易に洗浄消毒して清潔に保つことができます。
しかし、耳の奥となると、簡単ではありません。
犬の耳の洗浄方法は、専用の洗浄液を使います。
【マッサージ法】
耳の外側に水面が見えてくるくらい、多めに洗浄液を入れ、
耳の付け根(水平耳道)をやさしくマッサージします。
しばらくすると、耳垢などの汚れが溶け出し、水面に浮いてきます。
脱脂綿で汚れを優しく拭い、犬にブルブルッと頭を振ってもらい、遠心力で汚れを外に出します。
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【チューブ法】
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②点耳
お薬を耳に垂らします。
感染の原因が細菌であるのか、酵母菌であるのか、
強いステロイドが必要なほど耳道が肥厚してしまっているのかなどにより、使用する薬を選びます。
多くの場合は抗菌剤、抗真菌剤、
ステロイドを含んだ合剤で奏効します。
点耳の注意点は、
しっかりと水平耳道まで入れて軽くマッサージすることと、
耳介の炎症部分にも塗布するということです。
また、洗浄直後のビショビショな耳に点耳すると、 せっかくの薬が薄まってしまいます。
可能であれば、洗浄と点耳を半日あけて、交互に行いましょう。
シリンジと柔らかいチューブを使って洗浄する方法です。
この方法は、慣れていないと鼓膜や耳道を傷つけることがあるので、
必ず動物病院でやってもらいましょう。 この方法もやはり、専用の洗浄液を使います。
耳垢に直接水流を当てることができるため、より頑固な汚れも取り除くことが出来ます。
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基本的な治療、ケアはこれだけです。
あとは病態や体質に合わせて薬、洗浄剤を調節して治療します。
しこりや異物、ダニの感染、耳道の重度肥厚、中耳炎などを併発していなければ、
比較的早期に改善するでしょう。
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大変よくみかける疾患、外耳炎。
重症化してしまうと、
手術が必要となってしまうこともある病気ですが、
早期に適切な治療をすれば、改善が早い病気でもあります。
また、ケアの方法の間違いによって悪化してしまうことが
多い病気でもあります。
適切な治療、ケアで病気の発症を未然に防ぎましょう。