第7回 アトピー
滝田雄磨 獣医師
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前回に引き続き、痒みをともなう皮膚疾患についてです。
今回は皮膚がかゆい病気のなかでも、よく質問されること。
アトピーについて紹介したいと思います。
皮膚のかゆみを主訴に動物病院に行くと、
アトピーの話を聞くことが多いと思います。
アトピーとはそもそも何なのか。
アレルギーとはどう違うのか。
簡単に言うと、アレルギー反応と関連があるもののうち、
皮膚の炎症を伴うものがアトピーです。 -
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ヒトではアトピーについて次のように言われています。
“繰り返す掻痒性（かゆい）皮膚炎であり、
遺伝的な素因（家族歴）が存在し、
しばしば環境抗原と関連しているもの。”
つまり、アトピーは遺伝や体質によるものが大きいのです。
犬アトピー性皮膚炎は、
ヒトのアトピーと類似する疾患であり、
やはり同じようなことがいえます。 -
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ここで出て来る環境抗原とは、
普段生活している環境の中にある物質で、
アレルギーの原因となっているもの。
ダニ、花粉、ハウスダスト、細菌、カビ・・・
室内飼育の場合、
まめに掃除をすることでこれらを減らすことはできますが、
普段の生活から完全に除去することは、
ほぼほぼできない物です。
したがって、アトピーの治療方法は、
患者さんの免疫を抑えたり、
皮膚のバリア機能を高めたりすることが主軸となります。 -
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ところで、アレルギー反応を起こしやすい体質であったとしても、
これらのアレルゲンは本来皮膚からは侵入できない物質です。
皮膚から侵入できなければ、免疫反応も起こさないはずなのです。
しかし、アトピーの患者さんでは敏感にアレルギー反応を起こし、痒みを発症してしまいます。
なぜなのか。それにはもう一つの原因が関係しています。
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それは、アトピーの患者さんの皮膚は、
生まれつきバリア機能が弱いということです。
アトピーの犬では、
皮膚に炎症を起こしている場所のバリアが崩壊している
だけではなく、なんの症状もない
正常な見た目の部位の皮膚でも実はバリア機能が弱い
ということが、
最近の研究で分かってきています。（東京農工大学） -
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バリア機能が弱いと、
皮膚にアレルゲンが侵入し、結果アレルギー反応を起こしてしまいます。
・アレルギー反応を起こしやすい体質である。
・アレルギー反応を起こす原因物質が身近から除去できない物質である。
・皮膚のバリア機能が弱くアレルゲンの侵入をゆるしてしまう。
これらがアトピーの原因だと言えます。
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アトピーは基本的に治ることがない病気です。
したがって、完治させることが治療目標ではなく、
痒みを減らして生活水準（QOL:クオリティ・オブ・ライフ）をあげることが治療目標となります。
それぞれの原因ごとに治療法を紹介していきます。
①アレルゲンとの接触
アレルゲンと接触することがなければ、アトピーを発症することはありません。
先述したように、アレルゲンは身の回りにあるものです。
完全に除去することが難しいもの。
しかし、接触の機会が減れば、アトピーの症状もやわらぎます。
したがって、まめに掃除をして環境を清潔に保つ。
適度にシャンプーをして体の表面を清潔に保つ。
洋服を着せるなどしてアレルゲンとの接触を減らす。
こういったことで症状の緩和を図ることが出来ます。
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②皮膚のバリア機能
皮膚のバリア機能が強ければ、
アレルゲンは皮膚に侵入することができず、アトピーは発症しません。
皮膚のバリア機能を強くするにはどうすればよいのか。
そもそも皮膚のバリア機能が低下しているとはどういうことなのか。
〇セラミド
最近の研究で、アトピーの患者さんでは、
皮膚の細胞と細胞の間にあるセラミドという脂質が少ないことがわかってきました。
このセラミドという物質が少ないと、皮膚のバリア構造が弱くなり、
アレルゲンの侵入をゆるしてしまいます。
したがって、セラミドを補うことができる保湿剤や、
セラミドを除去しにくいシャンプーなどを使うことによって、
皮膚のバリア機能を高めることが出来ます。
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〇保湿系シャンプー
ここで注意をしてほしいのが、保湿系のシャンプーは、
使えば使うほど皮膚が潤うというものではないということです。
あくまでもシャンプーなので、皮膚の脂分を洗いながしてキレイにしてくれます。
しかし、脂分が流れれば、皮膚のバリア機能は低下します。
したがって、保湿系のシャンプーは、皮膚のバリア機能を高めるというより、
皮膚のバリア機能の低下が少ないシャンプーなのです。
動物病院で処方されたからといって、
毎日毎日シャンプーをしていれば逆効果となってしまいます。
週に2回程度を目安にシャンプーをしましょう。
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〇サプリメント
食事で摂取している必須脂肪酸のバランスなどの栄養面で不足があった場合、
サプリメントによりこれを補う治療方法もあります。
必須脂肪酸のバランスが崩れると、皮膚の細胞間脂質に異常をきたします。
サプリメントだけで完治することは難しいですが、
併用することでステロイドなどの投薬量の減量を図ることが出来ます。
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ステロイドと聞くと連想するのが副作用です。
たしかに高用量のステロイドを毎日投与し続ければ、
副作用が起こります。
しかし、低用量のステロイドを週に2回程度の投与であれば、
長期間投与を続けてもほとんど副作用は問題になりません。
したがって、ステロイドを使ってアトピーの治療をする場合、
他の治療と併用することでステロイドの用量を減らし、
副作用がおこりにくい用量で維持すればよいのです。
ステロイドも使い方次第では、
アトピーのよい治療になります。 -
③薬で痒みを抑える
ここまでの治療法によって、ある程度の痒みを減らすことができると思います。
しかし、アトピーの患者さんでは、完全に痒みをなくすことは難しいのです。
そこで、ステロイドを始めとする薬を投与することによって、
痒みの反応を抑える治療を行います。
また、近年ステロイドにとって代わる薬がどんどん開発されています。
昨年も新しい薬が日本で使用できるようになり、治療の選択肢が増えました。
海外ではさらに新しい薬の使用も始まっており、
近年この新しい薬も日本に導入されるとのことです。
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アトピーの患者さんは、二次的に感染症を発症することがよくあります。
多くは細菌やマラセチアという酵母様真菌です。
これらの感染症のコントロールができていないと、
皮膚はどんどん悪くなっていってしまいます。
皮膚炎が起きていたら、
必ず動物病院で感染症を併発していないか
検査してもらいましょう。 -
④二次感染のコントロール
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先述したとおり、アトピーは生涯付き合っていく病気です。
さらに残念なことに、その症状は年を重ねるごとに徐々に悪化すると考えられています。
しかし、獣医医療の進歩により、
近年ではある程度コントロールができる病気となりました。
すべての病気において、発症した原因の一部は遺伝した体質によるものです。
アトピーもそのひとつ。
かわいそうではなく、その子の個性として治療しながら付き合っていきましょう。
